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東京地方裁判所 昭和37年(行)110号 判決 1965年4月08日

原告 守田京子

被告 国 外一名

訴訟代理人 岡本元夫 外二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、当事者双方の主張一、二記載の原告の主張事実および同四記載の被告国、同西谷の主張事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、本件土地の買収処分が無効といえるかどうかについて検討する。

(一)  原告は不在地主ではないから買収処分は無効であるという主張について

証人岩野藤男、同桝田文夫、同谷口栄一、の各証言同小林玉枝の証言の一部ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告はもと岐阜県吉城郡神岡町大字船津九一一の一に居宅を有しそこに居住していたが、本件土地を除くその他の所有地をことごとく自作農創設特別措置法により買収された(本件土地は在村地主が保有を許される面積内の土地として買収を免れた。)ので、昭和二六年ころ自宅を桝田文夫に売却し、しばらく神岡町の小林小次郎方に身を寄せていたが、その後上京して東京都大田区馬込町東二丁目九五五番地に住む実母(戸籍上は養母)小林玉枝方に身を寄せここを生活の本拠とし、昭和二七年一月一日から同所を住所と定める旨の正式の届出をしたこと、しかし間もなく前記買収処分の無効を主張し土地の回復をはかるためには長く神岡町を離れたままになつていることは不利であると考え神岡町の伊西正一郎方に部屋を借りてしばしば東京の右小林玉枝方と神岡町の伊西方の間を往来していたが主食の配給は右小林玉枝方宅受けていたことが認められ、証人小林玉枝の証言中右認定に反する部分は採用できない。

右事実関係に徴すれば、本件買収処分当時原告の住所が本件土地の所在する神岡町ないしこれに隣接する市町村の区域内にあつたということはできず、むしろ東京都大田区馬込町東二丁目九五五番地の小林玉枝方を原告の住所とみるのが相当である。

そうだとすれば、本件買収処分当時原告が不在地主でなくて在村地主であつたことが明白であつたといえないことはもちろん、そもそも在村地主であつたとはいえないから、本件土地を不在地主の保有地として買収した点に無効原因があるということはできない。

(二)  本件土地は山林であつて採草地ではないから買収処分は無効であるという主張について

本件土地の検証の結果によると、本件土地はスロープ状をなした山地であり、全体的に樹木は少なく、すすき、しだ、その他の雑草、雑木が背丈程度に密生しているだけであり、このことと後記のように本件土地は採草地として使用されていたという利用状況をあわせると、本件買収処分当時も本件土地は採草地であつたものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがつて、本件土地は山林であつて採草地ではないから本件買収処分は無効であるとはいえない。

(三)  本件土地は小作採草地ではないから買収処分は無効であるという主張について

成立に争いのない甲第二号証の一、二、乙第三号証の一、二、丙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証、同第五号証、証人岩野藤男の証言、被告西谷啓太郎の本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、本件土地はもと訴外沖野利一郎が原告方の承認を得て採草地として使用していた土地であるが、昭和二三年自作農創設特別措置法による牧野の買収、売渡しが行なわれた際本件土地は在村地主の保有地として買収から除外されることとなつたので、右沖野利一郎には本件土地に見合うものとして他の採草地が売渡されたため、同人が本件土地の使用をやめたところ、その直後から被告西谷啓太郎が原告方の了承を得て本件土地を堆肥を作るための採草地として使用するに至り、対価として米や現金を支払つてきたこと、しかし右契約につき農地調整法第四条による知事の許可または農地委員会の承認を得ていなかつたこと、昭和二九年五月三一日神岡町農業委員会が本件土地が農地法第六条第一項に該当するとして同法第八条の規定による公示をするや、原告は被告西谷に対し同年七月一〇日付内容証明郵便で「山見廻り依頼」を解除する旨の通知をし立入り禁止の警告を発したこと、しかしそれまでは原告と同被告の間にいざござは全くなく、被告西谷は平穏公然と本件土地を推肥を作るための採草地として、使用してきたことが認められ、証人小林玉枝の証言中右認定に反する部分は採用できず右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうであるとすれば、本件土地は本件買収処分当時農地法第六条第五項により「小作採草放牧地」とみなされる土地にあたらないことが明白であつたといえないことはもちろん、そもそも「小作採草放牧地」とみなされる土地にあたらないともいえない。

したがつて、本件土地は小作採草地ではないから買収処分は無効であるとはいえない。

三、前記のように本件買収処分を無効といえない以上、申立て一、二記載の原告の請求はいずれも理由がない。

四、よつて、原告の請求をいずれも棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 田嶋重徳 小笠原昭夫)

目録<省略>

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